寓話


二十年来の親友だと思っていた男と十年ぶりに再会した男は嬉しさのあまり抱擁し、冗談を言い合い、朝まで酒を酌み交わし何ごとも無くまた会う約束をして別れたが、その男は親友だと思っていた男がずっとナイフを懐に隠しもっていたことを知らない。


宝くじの当選発表日に新聞の当選欄を確かめていた男は、自分が三億円を当てたことを確認し、途方もない喜びと興奮を一番の理解者である妻にはやく知らせたいと、いまかいまかと買い物に出た妻の帰りをまっているが、その時、その男の妻は、見知らぬ男に突然ナイフで刺され帰り道で絶命していた。


マンションの屋上から身を乗り出し、今にも飛び下りようとしている青年がふと空を見上げると、空中分解した飛行機から人間がたくさん振ってきた。


幼い頃母親と生き別れた娘は、母親に会いたい一心で、人生のほとんどを母親探しについやし、ついに母親が外国に住んでいるという情報を突き止め、マンションの部屋を引き払い外国へと飛行機で飛び立った。その日、娘の住んでいたはずの今は誰も住まない部屋の呼び鈴を押したのは、同じように娘の居場所を探し続けたその娘の母親だった。


小学生の時に埋めた、タイムカプセルを同窓生みんなで掘り起こしはじめ、固唾を飲んで発見を心待ちにしていたとき、同窓生の一人のスコップの尖端に触れたのは、誰のものともわからぬ白骨と化した人間の右腕だった。


どんなときでも好きな夢を見ることができる装置を開発した発明家は、自分の夢の中でも好きな夢を見る装置を開発していて、その夢の中でも好きな夢を見る装置を開発している。そのため、いったいどれが夢で現実なのかわからなくなってしまい、現実の発明家は痩せ衰え寝床で弱々しい寝息をたてながら衰弱していることにきづかない。
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