その星の海


その星の海は青く
限りなく深い夜の色をしているのだった

たくさんの涙
数えきれないほどの哀しみ
人々の手を離れてしまった慈しみ
心を締め付けるような愛おしさ

それらが深く沈んでいるから
青く深い夜の色をしているのだとある人は言う

絶望と
虚無と
静寂をたたえた目をもつ怪物が
深海でのたうちまわっているから
青く深い夜の色をしているのだとある人は言う

たとえば波にさらわれた子供の記憶が
座礁した帆船の錆び付いた錨の記憶が
ガラスの瓶に詰められた手紙の忘れられた記憶が
断崖から海に飛び込んだ男と女の甘い記憶が
混ざりあい、溶けて流れ深海へと沈み込み
青く深い夜の色になったのだとある人は言う

しかし、本当のところ
なぜその星の海が青く深い夜の色をたたえているのかは
誰にもわからない
人々の伝える言葉が経験に基づいた真実なのか
作り話なのかも

けれど、
人々の伝える言葉には願いと弔いの感情があり
それは、人々の心に染み込んだ哀しい手触わりの記憶のようで
伝える言葉がたとえ作り話であったとしても
僕はそれを少しだけ信じてみたいきもするのだ

僕らの住むこの星の海も青く
限りなく深い夜の色をしているのだから




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