晩夏


彼女は彼の手を握り「あなたが大好きよ。」と呟く

彼は猫に餌をやり猫の頭をそっと撫でてやる


秋が近づいている


強情そうな顔つきの市長はでっぷりとふとった躰を捩りながら

チャーターした飛行機の入り口を窮屈そうにくぐる

「あんな大きな人が乗ると飛行機が落っこちちゃうよ!」と

父親に連れられて飛行場を見に来た少年が

心配そうに父親を見上げている


秋が近づいている


夏の空気だけを残して

秋風が吹き始めている



今年も海に行かなかったと彼は思う


彼女が庭先に水をやっている


蜻蛉の数がやけに増えた


秋が近づいている

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