踏切り


残り少なくなったサイダーの缶を左手に持ち

踏み切りで電車の通り過ぎるのを待っている

小豆色の電車は鉄のかたまり

一瞬の静寂ののち

風を頬に放って遠くへと消えてゆく

まるで人の記憶みたい

果たせなかった約束をなぜか今頃になって思い出す

あの電車にはどれくらいの人が乗っていたんだろう?

一瞬で通り過ぎた記憶の数、意識の数

その多さに思わず目眩がして

僕は気の抜けたサイダーをひとくち、口に含んだ
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