呼吸


僕たちは何度も嘘をついて、
何度も死んだ
何度も笑って
何度も泣いた
犬のように吠える男を街中で見たことがあるし
猫のように哭く女を外灯の下に見たこともある
年齢不詳の、いつだってわだかまりを詰め込んだ
テレビの中の主人公たちはいったい誰に向かって叫んでる?
頭の中はいつものたちの悪いサウンドトラック
そもそも自由なんて言葉を、もう誰も信用しちゃいないし
正義面した男の腹の中が空っぽなのもみんなすでに気づいている
君は、君がはじめて泣いた日の夜を思い出せるか?
答えの無い問いが
君を大人と呼ばれる一人の弱い人間にしたのか?
わだかまりを咀嚼して愛に変える
理不尽な熱狂が白濁した目の奥に宿る
本当は何が正しいのかもわからないくせに!

僕たちは何度も嘘をついて、
何度も死んだ
何度も笑って
何度も泣いた
何度も…
何度も同じ過ちを繰り返した
その度に
後悔する
その度に、
小さな胸の痛みを覚える
適度なカタルシスで気持ちのバランスをとる、気分はピエロの綱渡り
本当はただ見え透いた嘘に踊らされていたいだけ 

僕たちは何回も何十回も何百回も何千回も何万回も何億回も
呼吸を繰り返して
それでも何にも学ばずに
何にも解らずに
ヘドロのような汗を心臓の奥底にかき続けながら
それでも世界は美しいと
世界は掌に滲む虹の残像のように神々しいと
理由もなしに
優しく
つぶやくのだ
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