最後の場所


雨に溺れた世界

曇り空に隠された月夜の哀しみ

風の染み込んだターコイズ

水に足先を付けて名前を呼ぶいつかの、景色

切り裂いた万華鏡の雨空

きらり、きらり

刹那を泳いで辿り着いた心

街灯に群がる虫たちの祝祭に彩られて

楔、穿たれた髑髏の心音が

どくっ、どくっと、

夜露に濡れた窮屈なからだを締め付ける

水面にうつろう月夜の羽に

ふわり、ふわりと、

彼方の吐息、優しく触れ

近く遠く、艶かしい恐れに戸惑いと軽いめまい

半開きのまなこに刻まれた約束

楕円の硝子に浮かぶ記憶の影法師

いつからか、探す事を止めてしまった

街灯に広がる硝子の森の果て

見知らぬ誰かの後ろ姿

忘れ去られた記憶の子供たち

月から滴り落ちる夜の血液の、残酷な戯れに誘われて

世界の果てを見にきた異相の女

ロープと釘、白い布とラジオペンチ

縛り付けられた手首に残る縄目

混濁してゆく意識

感情を殺して、徐々に指先に力を入れる女の細い指

笑いながら

笑いながら…




雨空を殺めた地平

やがて、囁きに似た甘い吐息が夜の果てから溢れ出す




back