私の唇が枯れた

遠い日の夢でも見ていたのだろうか?

雨の雫の上を涙が伝い

くたびれたシャツの袖に

青く小さな虫の死骸がこびりついていた

私は漠然と昨日のことを思った

昨日のこと?

いや違う

今までに私が経てきた過去の全てが

一瞬にして脳裏に浮かびそして消えたのだ


夏の日の溜息に混じって

大きな打ち上げ花火が夜空を彩る

千羽鶴の首飾りが汚れた銅像の首もとで

生温い風に揺らめいている

猫の亡骸をじっと見つめている少年の瞳から溢れ出る涙は

昨日に私が忘れてきたものだった


私はあなたのことを思った

あなたの声が私の耳もとを

通り抜ける瞬間のことを思った

胸の痛みと

夕暮れに佇む太陽の重さに耐えきれず

私はあなたの声が聞きたくてしょうがなかった


眠りながら何かを探し続ける日々

傷つくこと

傷つけられること

人生はたくさんの悲しみとほんの少しの喜びでできていると

誰かが言っていた

ならばせめて

そのほんの少しの喜びが

できるかぎりあなたのそばに満ちあふれていればいいと思う

空に憂いを向けることなく

あなたが幸せであればいいと思う


掌は私の言葉を握って離しはしなかった

怒鳴られることには慣れている

けれど心の深くにまで

土足で入ってこられるのはごめんだった

青い空の下子供達は走り回り

大人達が怒鳴りつけ

毎日は途切れることなく動き続ける


遠い記憶の中で

私達は波に打ち上げられた景色の

行き先を案じているのだ


私はあなたにあいたいと思った

あって話を

私の言葉を聞いてほしいと思った

私はあなたに

全てをさらけだすつもりでいるのだ

たとえそれが

どんなに醜く小さな自分自身の姿だったとしても

掌の中にどんな小さな言葉も残ってなかったとしても

私は

ただ

あなたのそばに存在していたいのだ

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