水族館 日が落ちる 私は眠る 遠い街の欅の木を思い出して 私は眠る 遠い島の海の青を思い出して 水族館の魚達 傷口をなめあうように群れる人々と 縺れあうように泳いでいる 私の知る幾つかの夜に似て水の中はとても涼しげ 私はその水面をひらひら漂い 心地のよい寝息をたてている一頭の蝶をみる 水族館の海に埋もれた階段をのぼる大人達 その側璧には無数の落書き なかには昔私が家の軒先きの端にこっそり埋めたものまである 見知らぬ誰かの掌が私の頬を打ったような感覚 日が翳りじりじりと月の熱が空気を侵食してゆくのがわかる 私は壁の落書きの一つを声に出して読んでみる 「また、ここであおう。」 力無く華奢なか細い字体 ここで?私は考える この場所でいったい誰と誰が出会ったというのだろう? (もしかすると出会わなかったのかもしれない。) (もしかするとまだ出会っていないのかも知れない。) 私は夜に埋もれかけつつある水族館の ひび割れた箇所から流れ出す海水の膨大な量に驚く 気がつくとすでに私の腰のあたりにまで海水はおよんでいる もしかすると・・・ 遠い街の欅の木を思い出して 遠い島の海の青を思い出して |
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