夜の穴


夜を捜し続けて俺達は死んだ
遠く防波堤に光の飛沫があがる
アスファルトに無数に散らばる吸い殻から囁かれるブルースは
けっして真実を撃ち殺したりはしない
あふれる欺瞞の数だけ言葉は祈り
凍えるラジエーターの唸りだけが夜空を赤く染める
海の果てから聞こえてくる硝子の反響音に俺達のニヒリズムは舌を巻き
形式張った残酷に唾を吐く
俺達の情念はテンプルを打ち砕かれ気絶したボクサーの吐血のように色褪せない

知っているだろう?
俺達の死が大地の糧となり
やがて深い怒りの発露が絶望を乗り越えてこの世に美しい雪を降らせる
まるで魔法みたいに
腐りかけの果実の刹那
鈍器で殴られた鈍い芳香のように
死に直面した肉食獣の咆哮
闇夜に打ち震える本能のように

俺達の死はフーディーニの巧みな脱出劇のようにスピードをあげ、
正確な秒を刻む懐中時計でも計れぬ、盲目のスピードで夜を疾走する

覚えているだろ?
五月の風の遠い空の向こう
華やいだ記憶の残照に光を纏った俺たちがいたことを
哲学も、思想も、政治も、宗教も、
取り込まれるものは何もなく俺たちが真白だったころのことを
ただ運命だけが、夜の終わりに大口を開け
革命なんて歪な言葉が世界を席巻する前に俺たちはその真暗闇と対峙した 

夜を捜し続けて俺達は死んだ
薄い灰色のベールに包まれた焦燥の警笛
おびえるメトロノウムの傷口に染み込んだ時間の快楽

神様の銃口はいつまでも、俺たちのこめかみにピタリと貼りつけられたままで
いつ、その引き金がひかれるのかもわからない

「いつだって、俺たちの頭の中には巨大な穴があいている。」

タバスコをふりかけた鮮血
足首に連綿と絡まった記憶の鎖
頭蓋に染み込んだ本能のブルース
絞首台に群がる観客たち
選り好みしている時間なんてない
魂のマントルピースに火をくべ
俺たちは誰も立ち入ったことのない夜の裏側を目指すんだ

腐りきった絶望に真心のこもった銃身を
希望と善意を焦げ付かせた天使の戯言に断末魔の鉄槌を
あおい月の光に照らされた俺たちの無尽蔵の死に真実の墓碑銘を

今、真夜中が誰も知らぬ秘密の言語でするどく死を刻みつける





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